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対談
野水伊織(声優)
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朝倉加葉子(映画監督)
野水:『呪呪呪/死者をあやつるもの』、けっこう“ゾンビ押し”で来るのかなと思いきや、アクションもあり、社会派なテーマもありの、いろんな要素が詰まった作品だと思いました。
朝倉:説明しやすいところでは“ゾンビホラー”や“ゾンビアクション”と言えるのですが、そこもしっかり描きつつ、もっといろんな方向の面白さがありましたね。
野水:ヨン・サンホさんが脚本を書かれているということもあり、『新感染』の爽快感、疾走感みたいなものもありますよね。朝倉:そうですね。この映画にはベースとなったドラマシリーズ(『謗法~運命を変える方法~』1シーズン全12話)があるわけですが、映画で初見の人を置いていかないことに徹底して気を配っていると思います。あくまでも『呪呪呪』は、韓国メジャー系映画のエンタメイズムで、絶対に100万人に見せます! という意志のようなものをすごく感じました。
朝倉:「キター!」ってなりますよね。
野水:助けに来てくれるとわかっていても、やっぱりテンション上がりますよね(笑)。朝倉:確かに、ホラー要素の見せ方が、ホラーというよりはジュブナイルっぽいですよね。手首に聖痕が浮かびあがるシーンなんかは、確実に「かっこいいもの」として撮っている。そのファンタジックなかっこよさは、漫画好き、アニメ好きの人をターゲットに寄せた表現かもしれませんね。でも、この「漫画的な表現」っていうのが、実はけっこう難しい。
野水:アニメだからできる表現と、実写だからできる表現って、全然違いますよね。だけど『呪呪呪』ではそのポイントを的確に押さえている感じは、ヨン・サンホさんのアニメ業界での経歴が活かされているのかな? と思いました。朝倉:私はドラマシリーズの『謗法』も全話履修済みで、大好きなんです。そっちも『呪呪呪』のキム・ヨンワン監督が手掛けていますが、彼はシリアスなドラマの上で、ホラーやオカルトの要素を動かしていくのが上手い。すごく見応えがあるドラマでした。
野水:私はこの映画を観てからドラマを観ましたが、映画とかなりテイストが違うので驚きました。導入から空気感がガラッと違いますよね。映画で最後にソジンが「心の中の悪鬼にばかり執着するな」と言われたと語るシーンがありますが、あれはドラマを観ているとますます心に響きます。ソジンのキャラクターって、別に大人でもよかったと思うんですけど、あえてあの世代の女の子にしたというのが面白い。彼女の謗法師としての迷いや悩み、それに打ち勝ってきたことに対して、観ているこちらも救われるような気がして、とても印象的でした。朝倉:そうですね。映画でも、ドラマで積み重ねてきたキャラクターの心情はしっかり描こうと、大切に扱っているのがわかりますよね。そんな中で、映画は単発で観てもきちんと楽しめるように、2時間にエンタメをいっぱい詰め込んで、「この一発に込めます!」という打ち上げ花火のようなアツイ気合いを感じました!
野水:あのシーン、雰囲気もあるし、映画で最初のアクションが観られるし、気持ちが一瞬で持っていかれますよね。
朝倉:夢や幻覚を見せるシーンは映画では珍しくないですけど、どこまで現実と差をつけるかというバランスは、けっこう悩むところだと思うんです。それをあれほど突き放しちゃうというのもかっこいいなと思いました。あと、死体がルカ・グァダニーノ監督版の『サスペリア』(18年)みたいに、バッキバキに折り畳まれるのが好きで(笑)。「超かっこいいじゃん!」って、拍手しちゃいました。アクションとホラーのバランスがビビットに反映されているシーンかもしれませんね。野水:アクションでは、私はやっぱりジェチャウィ100人が追いかけてくるシーンが圧巻ですね! 私、個々じゃなくて大勢が一緒になってかかってくる「一枚岩のアクション」というのが元々すごく好きなんです。日本映画で例えるなら、『HiGH&LOW THE WORST』(19年)の鳳仙学園の坊主たち(笑)。『呪呪呪』でも、大勢のジェチャウィがバーンと揃って、みんなが「えっ、何!?」って驚いてから襲いかかるまでのスピード感は、すごくジェットコースター的な見どころのひとつだと思います。この一連のシークエンスの中でも、最後にジェチャウィたちが車の中に手を突っ込んできて、中の人が引きずり出される。真っ昼間で天気も良くて明るいし、ジェチャウィたちもそこまで怖いビジュアルじゃないのに、一気に「怖い!」という感覚に持っていかれるんですよね。役目を終えたジェチャウィがその場で崩れ落ちるという、静と動のメリハリもすごく好きでした。
朝倉:あの怒涛のジェチャウィ100人のシーン、ジェチャウィたちが車を運転し始めるあたりは、怖さを通り越してちょっと笑いそうになっちゃいますよね(笑)。私は作り手側の目線から、パーカー姿のジェチャウィを見ると「なるほど、おそろいの衣装や大勢のゾンビメイクは大変だもんな」って思って見てしまいました。野水:えっ! 私はてっきり、パーカーのフードはこの世のものではない隠者のイメージを兼ねているのかと思っていたのですが、そういう裏事情もあったんですね(笑)。
朝倉:でも、パーカーにしたのは野水さんの言うように、隠者のマントを彷彿とさせるので上手いなと思いましたね。そういうところも含めて、いかに楽しませるか、そのためにどこにお金をかけるかという知恵と勇気を凝らした結晶だと思います。こういうときの勇気って、かなり大事だと思いますから。野水:どこを削るかって、勇気いりますよね。
朝倉:ホラー映画が好きな人でも、「グロいのはちょっと……」という人もいますよね。「漫画は読めるけど映像になるとダメ!」という人もいる。
野水:ホラー映画って、“恐怖を楽しむ”ものだと私は思っています。だから、もし興味があれば、一緒に楽しんでくれる友達と観てみるというのは、ひとつの手かもしれません。朝倉:私と野水さんも、ホラートークしていると楽しくて、いつも時間が足りなくなるんですよね(笑)。
野水:そうそう。私はこの前、ファンの方々とAmazonプライムのウォッチパーティーで、「私の大好きなアート・ザ・クラウンの映画を一緒に観ましょう~!」と言って『テリファー』(16年)を観たんですよ。朝倉:楽しそうな活動ですね!
野水:もちろん途中で退出された方もいたんですけど(笑)、最後には「アートさんがかわいく見えてきました!」「野水さんがハマる気持ちわかります!」と言ってくれる人とかもいて、おっ、これはホラー沼に引きずり込めるか?! みたいな(笑)。そうやってワイワイ観ていくうちに、いつの日か「怖い」が「楽しい」になって、面白さを見出せることもあるかもしれません。朝倉:そういった意味で、いろんなエンタメ要素が詰まった『呪呪呪』は、入りやすい間口の広さがあるかもしれませんね。