呪呪呪/死者をあやつるもの

2023年2月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開!

監督:キム・ヨンワン
原作・脚本:ヨン・サンホ
キャスト:オム・ジウォン 、チョン・ジソ 、チョン・ムンソン 、キム・イングォン 、コ・ギュピル 
提供:CJ ENM  制作会社:クライマックス・スタジオ 
共同制作:CJ ENM、スタジオドラゴン、キーイースト
配給:ハピネットファントム・スタジオ 
呪呪呪 じゅじゅじゅ ジュジュジュ JUJUJU

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Special Contents

インタビュー

原作・脚本 ヨン・サンホ
――あなたがこれまで手掛けた実写映画ではご自身で監督をされていましたが、『呪呪呪/死者をあやつるもの』ではキム・ヨンワン氏に監督を託していますね。何か特別な理由はあるんでしょうか?
ヨン:私が『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20年)の撮影を準備していた頃に、スタジオドラゴンから「ドラマシリーズを撮ってみませんか?」という提案を受けました。それが今回の映画のベースとなっている『謗法~運命を変える方法~』です。ですが『新感染半島』があったので、ドラマの監督まで手が回らないと考えて、原案と脚本のみをお引き受けたんです。その時『謗法』を監督・演出してくれたのがキム・ヨンワンさんで、このドラマへの理解が深いこともあり、今回『呪呪呪』についても彼にお任せすることにしました。

これまでは自分で書いた脚本を自分で演出していましたが、最近は演出を別の方にお任せするという方法も取っています。そうすると自分で演出するのとはまた別の面白味があり、それぞれの監督の考えが映像として見えてくるので、興味深いですね。

――キム・ヨンワン監督とはどこで出会ったんですか?
ヨン:私は数年前にKT&G想像広場の「Great Short Film Festival」で審査員をしたことがあるのですが、その時に私が監督賞をあげたのがキム・ヨンワンなんですよ(笑)。ちなみに『謗法』に出ていたソジンの母親のソクヒ役を演じたキム・シンロクは、キム・ヨンワン監督が短編時代に関係を築いた俳優の一人です。彼女は素晴らしくて、後に私の『地獄が呼んでいる』にも出てもらったほどです。
ジェチャウィはブードゥーゾンビ×キョンシーを意識しました!
――本作の脚本を書く上で、どのようなことを意識していたのでしょうか。
ヨン:過去の「新感染」シリーズではジョージ・A・ロメロ作品のような古典的なゾンビものを思い描いていましたが、いわゆるゾンビ映画として演出をしたというよりは、大きな災難が起きるという意味でのディザスタームービーとして撮影しました。ゾンビものはマイナージャンルとして捉えられがちですが、そういったジャンルをどうしたら一般の方にも楽しんでもらえるか、常に考えています。それらをエンタメに昇華し、映画として愛される作品にするためには、社会における様々な感覚や、現実を生きている人間の姿をいかに描くか、共感を盛り込めるかが大事なことだと思います。そこで本作では、極限状況下で人々が生き残ろうとサバイブする生存への希望にアクションを加えたのです。『謗法~運命を変える方法~』は従来の犯罪ドラマなどのジャンルに、超常現象のようなものを加味すると面白いのではないかと考えていたので、ミステリー要素が強いドラマシリーズになっていますが、映画では様々なジャンルを融合させて、映像的な部分でも見応えのあるエンターテインメントとなることをイメージしました。
――『謗法』は巫俗信仰とグッ(御祓)が核心だったとすれば、『呪呪呪』ではゾンビ=ジェチャウィが重要なポイントになっていますよね。ジェチャウィというキャラクターを描く上で、何かイメージしたものはありますか?
ヨン:ドラマ版の脚本を作る段階から、韓国の色々な地域の伝説や妖怪に関するリサーチを重ねていました。ですが、私が知る限り、日本では古くから伝わる民族的な神話や、妖怪などの資料が豊富にあるかと思いますが、韓国ではそういった書籍が多くなく、資料集めには苦労しました……。その中で見つけたのが、ジェチャウィにまつわるものです。

慵斎叢話ようさいそうわ』(編注:15世紀頃に書かれた朝鮮・韓国の怪奇譚集。成俔著。日本では2013年に梅山秀幸によって初訳。作品社刊)と『於于野譚おうやたん』(編注:16~17世紀に朝鮮で書き残された民衆に伝わる説話や伝承をまとめた代表的な古典。柳夢寅著。日本では2006年に梅山秀幸によって初訳。作品社刊)という書物にもジェチャウィの物語が登場しますが、その書き方が独特でした。それらの著者は、「ジェチャウィは実存しない」ということを知らせるように書いてあったんです。なぜ他の奇妙な説話は実際に起きたことのように記述してあるのに、ジェチャウィについては偽物と書いたのか。それが気になって、ひょっとしてジェチャウィが外国の迷信だと暴こうとしたのではないかと想像したんです。かといって、ハイチのブードゥー教がその昔、朝鮮に伝えられたはずもない。本来、死体を蘇らせるのは黒魔術の一種なので、アジア内の黒魔術がある国はどこなのか調べてみると、インドネシアにドゥックンという黒魔術師がいたことがわかり、それを本作に取り入れたのです。ジェチャウィに関してはとても想像力をかきたてられましたね。

本来、ブードゥー教から発祥したゾンビは呪術師が動かした死体ですが、農作業などの労働を目的とした存在でもありましたよね。私たちが映画でよく観る、ウイルスに感染して凶暴になったゾンビたちとは違う。どちらかというとジェチャウィは、ブードゥー教のゾンビの原型に近いですね。それに、若い頃に観ていた香港のキョンシー映画のことを思い出しました。カンフーとキョンシーが結合した、エンターテインメント性の高いシリーズです。それが呪術によって動かされているという点でも、今回のジェチャウィと似ているところがあるかもしれない。願わくは本作のジェチャウィも、キョンシーのような愛されるキャラクターになれたらいいな、という想いで脚本を書きました。
『呪呪呪』に隠された日本映画の影響
――『謗法』のラストから3年間の放浪を経て帰ってきたソジンは、中国で悪鬼を利用する様々な謗法を学んできたという。ソジンが結界を張る時、中国の師匠から得たという木の枝を使いますが、これには中国の説話との関連もあるのですか?
ヨン:リサーチ中に知ったのですが、書店に行くと御札と関連した書籍が非常に多かったんですよね。よく漫画キャラクターが披露するような、手で結界の印を切る動作について記述した本もありました。ソジンが結界を作り出すシーンでの動作については、監督とどう表現するかはよく議論しましたが、韓国の映画ファンが手で印を切るのを受け入れるのは無理があるように思えたので、木の枝を利用する方向に変えたのです。アニメの『NARUTO』なんかではすごくかっこいいんだけどね(笑)。
――一方のジニにも変化がありました。新聞社「チュンジン日報」から独立メディアを立ち上げていますね。
ヨン:『謗法』の世界観では超自然的な現象が多く出てきます。このような現象を社会がどれほど受け入れるかと考えてみると、簡単に受容されることは想像しがたい。そうなると、ジニが記者として新聞社に在職しながら、同僚にも認められず、自宅待機を命じられたとすれば、どこかの机に向かってただ待っているよりは、彼女が主体的に動ける、独立的な選択が必要だと思いました。そこで、『謗法』から付き合いのある探偵のキム・ピルソン(キム・イングォン)とともに小さな独立メディアチャンネルを立ち上げたというアイディアが生まれた。「いんちき記者」として扱われたために会社を辞めたという設定は、キム・ヨンワン監督が提案してくれたんですよ。
――本作には日本の四国の描写も登場しますが、日本についての印象を教えてください。また、クリエイターとして影響を受けた作品はありますか?
キム:私はパク・チャヌクやポン・ジュノ、イ・チャンドンといった監督方の映画を観ながら韓国で生まれ育ち、映画監督を志すようになりましたが、私自身はアニメーション業界の出身ですし、子どもの頃から日本のアニメーションも多く観ていましたよ。その中でも特に今敏さんや、大友克洋さんの作品が好きでした。実写では、映画祭でも実際にお会いできた黒沢清監督の『CURE』(97年)も大好きで、インスピレーションを得たこともあります。最近だと片山慎三監督の『さがす』(22年)や『さまよう刃』(21年/WOWOW)も素晴らしかったですね。

『呪呪呪』に登場したのは四国の描写のみですが、ドラマ『謗法』では日本の呪術師も重要なキャラクターとして登場していますよ。中島哲也さんの『来る』(18年)にも韓国の呪術師がいましたが、日本と韓国の呪術師が混じってお祓いをしているのが興味深かったですね。こういった形の文化交流もあるんだなと。

――『呪呪呪』ではカーアクションシーンも見どころのひとつになっていますが、『新感染半島』のSUVとダンプカーのシーンに続いて、本作ではジニがワゴン車でジェチャウィ軍団とカーチェイスを繰り広げます。ヨン・サンホ印のカーチェイスはSUVやワゴン車など大型車両が多いような気がしますが。
ヨン:(笑)。私はスポーツカーで滑らかに繰り広げられるカーチェイスよりも、大きい車両で鈍重に疾走するのが好きみたいですね(笑)。それは韓国映画的とも言えるかもしれません。新しい表現を作ろうとする時、ユニークさと滑稽さは、本当に紙一重だと思っています。映画を作る立場では、おかしくなくユニークな動きを作れるか、自ら確信するのはとても難しい。かといって、従来の作品と同様に安定的な道だけを選べば、観客に新しい印象を残すことはできません。「このように表現するのが怖いかな?」と、疑いを持ち続けながら、試行錯誤して作っています。
[PROFILE]
ヨン・サンホ(原作・脚本)
1978年、韓国出身の映画・アニメーション監督・脚本家。多数の短編を経て2011年、長編アニメーション映画『豚の王』を発表。監督・脚本の他、キャラクターデザインや絵コンテ等を務めた本作で第16回釜山国際映画祭でDGKアワード監督賞を受賞した他、36カ国の映画祭に招待され、韓国の長編アニメーション映画として初めてカンヌ国際映画祭に出品されるなど各国で話題となる。2016年には監督・脚本を務めた初の実写映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』が韓国国内で大ヒットを記録。第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭監督賞等を受賞。世界的な人気を得て『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20年/監督・脚本)も作られた。近年はドラマシリーズも手掛けており、『謗法~運命を変える方法~』(20年/脚本)、『地獄が呼んでいる』(21年/監督・脚本・漫画原作)等、多岐に渡って活躍している。