呪呪呪/死者をあやつるもの

2023年2月10日(金)より新宿バルト9ほか全国公開!

監督:キム・ヨンワン
原作・脚本:ヨン・サンホ
キャスト:オム・ジウォン 、チョン・ジソ 、チョン・ムンソン 、キム・イングォン 、コ・ギュピル 
提供:CJ ENM  制作会社:クライマックス・スタジオ 
共同制作:CJ ENM、スタジオドラゴン、キーイースト
配給:ハピネットファントム・スタジオ 
呪呪呪 じゅじゅじゅ ジュジュジュ JUJUJU

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イントロダクション

 韓国国内において、興行収入931億ウォン、観客動員数1,156万人のメガヒットを記録したパンデミック・アクション映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16年)。「シャイニング」「IT」などで知られる人気ホラー作家であるスティーブン・キングも絶賛した本作で、監督を務めたヨン・サンホは一躍世界が注目する映画作家となった。

 その後、彼は『新感染』の前日譚をアニメで描いた『ソウル・ステーション/パンデミック』(16年)、4年後を描いた続編『新感染半島 ファイナル・ステージ』(20年)を手掛け、“K-ZOMBIE”ムーブを巻き起こすとともに、独特の世界観を広げ存在を示していった。これにより、ヨン・サンホ・ユニバース=“ヨンニバース”という造語を誕生させるまでに至ったが、この“ヨンニバース”の定義は、『新感染』シリーズに留まらないのが興味深いところだ。

 もともと、イジメ問題など社会の暴力の起源を描いた『豚の王』(11年)や、信仰をテーマに偽りの救済と人を絶望させる真実の対立を描いた『フェイク~我は神なり』(13年)など、社会派のアニメ作家として知られていたサンホだが、新興宗教の台頭により世界が一変するというコミック『地獄』でウェブトゥーン界に進出。それを原作とし、Netflixオリジナルドラマ『地獄が呼んでいる』(21年)を自身の手で映像化した。

 そして、漢字の名前、写真、所持品で人を呪い殺せる能力を持つ謗法ほうぼう師と、正義感溢れる新聞記者がバディを組み、悪霊が憑りついた企業の陰謀に立ち向かう『謗法~運命を変える方法』(20年)で、ヨン・サンホは自身で初めてドラマシリーズ全12話の脚本を執筆した。この世界観をベースに、原作と脚本を務めた今回の最新映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』(21年)へと繋がっていく。

 実写映画/アニメ/ドラマシリーズ/ウェブトゥーンと、サンホの世界観がメディアの垣根を超えて展開されていくことが“ヨンニバース”ともいえるのであるが、“ヨンニバース”のすべての作品に共通する点として、事件や災難に巻き込まれた登場人物たちが、極限状態に追い込まれることによってエゴや弱さを露呈させ、人間の醜い部分がリアルに描かれることが挙げられる。そして、人間がいちばん怖いという、後味の悪さを残すことも特徴のひとつである。

 22年に入ってからも、韓国ではサンホがふたたびドラマシリーズの脚本を務めた『怪異』(日本未公開)が放送され、『新感染』で初めてゾンビウィルスが発生した架空の地名「チニャン」や、『謗法』に登場した悪霊に憑りつかれた仏像「鬼仏」などを登場させ、マニア心をくすぐった。ほかにも、サンホが監督したアニメ『豚の王』を原案としたキム・ドンウク&キム・ソンギュという人気俳優共演のドラマシリーズ『豚の王』(日本未公開)が放送されたことも話題となった。

 また、『呪呪呪』を語るうえで欠かせないポイントは、制作スタジオの存在だろう。『梨泰院クラス』(20年)などを手掛けてきた中央日報系のテレビ放送局・SLL(旧JTBCスタジオ。2022年に社名変更)の傘下レーベルであり、『地獄が呼んでいる』を手掛けたクライマックス・スタジオなどと並んでに、“スタジオドラゴン”の名がクレジットされているのである。

 16年にCJグループの子会社であるCJ ENMのドラマ事業部門として設立されたスタジオドラゴンは、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(16年)、『ミスター・サンシャイン』(18年)、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(18年)、そして『愛の不時着』(19年)といった人気ドラマを次々と制作。19年にはCJ ENMとNetflixと提携し、3社共同で制作を開始。21年には日本でも『ヴィンチェンツォ』(21年)、『スタートアップ:夢の扉』(20年)、『キム秘書はいったい、なぜ?』(18年)の3つのドラマシリーズにフォーカスしたイベント「スタジオドラゴン 韓ドラ展」が開催された。さらに、22年にはLINEマンガなどを運営するLINEデジタルフロンティアなどと提携した「スタジオドラゴンジャパン(仮)」の設立を発表している。

 つまり、韓国エンタテインメント市場において、今最も勢いがあるスタジオといっても過言ではない。そのスタジオドラゴンは、前述した『謗法』『怪異』『豚の王』も手掛けているだけに、“ヨンニバース”とは切っても切れない関係性にあるのだ。

 本作においては、呪術によって蘇り操られた屍=“在此矣(ジェチャウィ)”に命を狙われるスンイル製薬の重役の一人、イ・サンイン専務役をクォン・ヘヒョが演じているところにも注目したい。日本でも一大ブームを巻き起こした『冬のソナタ』(02~03年)のキム次長役がなじみ深い人も多いと思うが、カンヌ映画祭にも出品された映画『それから』(17年)などに主演するベテラン俳優である。彼は過去に『我は神なり』では宗教団体を率いる詐欺師の声を担当し、『新感染半島』では元軍人の老人・キムを演じているのだ。つまり、サンホ監督作の常連俳優が参加することも“ヨンニバース”の醍醐味といえる。 ちなみに今後サンホは、岩明均原作の人気コミックをNetflixドラマシリーズ化する『寄生獣 -ザ・グレイ-』を監督することも決定しており、 “ヨンニバース”のさらなる拡大も期待されるところだ。

 そのヨン・サンホが『呪呪呪/死者をあやつるもの』では原作と脚本に徹し、監督を託したのはキム・ヨンワン。『新感染 ファイナル・エクスプレス』への出演で強烈な印象を残しスターとなったマ・ドンソクが18年に主演した『ファイティン!』で長編監督デビューを果たした新鋭だ。ヨンワンは『謗法』の全12エピソードの監督を務めており、彼もまた“ヨンニバース”の一員であり、今後の韓国エンタメ界を牽引する一人となることは間違いない。

 そんな“ヨンニバース”と“スタジオドラゴン”がタッグを組んだ最新映画『呪呪呪/死者をあやつるもの』で、韓国エンタテイメントの最先端を目の当たりにするはずだ!

(くれい響/映画評論家)