宮沢：とても光栄に思っています。撮影前はものすごくプレッシャーを感じていましたが、キャスト、スタッフに恵まれ、楽しく自由にお芝居ができました。

藤原：『アイネクライネナハトムジーク』（19）で重要な役を頂いて、次に今泉監督の作品に出られるのはもっと先になるだろうと思っていたので、嬉しかったです。でも、クランクインが近づくとプレッシャーに苦しめられ、撮影期間中はとても辛かったです。この撮影を乗り越えられたのは宮沢氷魚のおかげです。

宮沢：初めて読んだ時は、感動と同時にLGBTQの知識が乏しい自分を恥ずかしく思いました。小さいころから多国籍、多文化な人たちと育ってきて、ゲイやバイセクシュアルの友達も多かったにも関わらず知らないことがたくさんありました。何度も台本を読んで、参考になる映画を観たり、たくさん研究を重ねました。

藤原：一つ一つのディテールが細かいので、まるで小説を読み始めたような、読むのに覚悟がいる感覚でした。裁判で渚がある決断をするシーンは、現場で撮影をしていくなかで、渚がどこかで自分を特別だと感じていたのではないかと気付かされました。同性愛者だからこそ直面する壁。その苦しみから逃れるためには人を傷つけることも仕方がないと、自分は弱い人間だから仕方がないんだとどこかで思っていたんじゃないか。あの決断は、自分たちが特別な存在ではないからこそ、しなければならなかったのかなと思います。

宮沢：僕にとって季節くんの存在はとても大きかったです。LGBTQ をテーマに映画を作るということは大きな挑戦であるからこそ、押しつぶされそうなほどプレッシャーと責任を感じていました。

藤原：氷魚は、とにかく素朴で、優しくて、それでいてどこか気高くて、好き嫌いがハッキリしていて、食べるのが好きで、お酒も好きで、あと結構シャイで思春期の中学生っぽいところもあって、ダイヤモンドの原石みたいな人です。僕が身も心も渚でいることが出来たのは、彼が井川迅だったおかげです。

宮沢：撮影期間中は季節くんと同じ部屋に泊まり、共に時間を過ごしました。毎晩夜中まで二人で作品のこと、役のことを熱く語り合いましたね。

藤原：精神的に過酷な撮影だったので、部屋に帰っても全然眠ることが出来なかったんです。そんな僕に氷魚は毎日付き合ってくれました。ワイドショーを流して2人でぶつぶつ感想を言いながら、大量発生したカメムシを紙コップで捕まえて、台本をテーブルに置いたまま遅くまでお酒を飲んだり。その時間がけっこう幸せで、日々の撮影を乗り越えることが出来たんだと思います。

藤原：今でもたまに、『his』のことを思い出します。そしたら胸がキュッて痛くなって、そのあとポッと暖かくなります。今でもあの二人が、岐阜白川町で暮らしているんじゃないかとさえ思います。卵は片手で割ってるんだろうなとか、コーヒーは迅が入れてくれるんだろうなとか。
たまに、思い出してください。この映画のことを。迅と渚と空のことを。そしたら少し切なくなるけど心が暖かくなるかもしれません。それって豊かなことですよね。

宮沢：この作品に出演して、LGBTQについて知らないことがたくさんあることに気づかされました。それは僕個人の責任でもありながら、LGBTQ が世間でまだ知れ渡っていない、認知されていないという現状にも原因があると思います。この作品が一人でも多くの方に届き、考えるきっかけになってくれれば嬉しいです。