本作で32年ぶりの共演を果たした本木雅弘さんと小泉今日子さんが演じるのは、30数年ぶりに再会するかつての恋人同士の役。手を取り合って客席通路からステージに登壇しました。続いて中井貴一さん、石坂浩二さん、仲村トオルさん、佐野史郎さん、菅野恵さん、若松節朗監督、倉本聰さんも登壇。ある事件を機に人々の前から姿を消した天才画家・津山竜次を演じた本木さんは「こうして公開に先駆けてお披露目できることを嬉しく思います。僕にとって初めての倉本聰作品という光栄なお誘いでしたが、役者として、もがくばかりの日々でした。それでも若松監督、スタッフ、小泉さんや中井さんに救われ包容力に助けられ、なんとか出来ました」と挨拶しました。
原作・脚本の倉本さんは「やっと完成しました。演技者が素晴らしい。これだけ凄い人たちが集まってくれて感激しています。ゆっくりご覧になってください」と観客に語り掛けて「よく完成したなと思った」と感慨もひとしお。
世界的な画家であり、安奈の夫・田村修三役の石坂さんとは『ラストソング』(1994)以来約30年ぶりの共演という本木さん。「約30年前なので僕は20代。そんな距離感だったものが本作では画壇で同期のような役。自分のキャリアでそんな瞬間が来るとは思わなかった。(メイクや芝居で)必死に老けました」と振り返ると、石坂さんは「私も必死に若返ろうとしたのに本木さんはどんどん老けて。」と笑わせた。
津山竜次のかつての恋人・田村安奈を演じた小泉さんは、倉本さんの脚本に触れて「説明的な無駄なセリフがない中で、少ないセリフでどのように情感を乗せればいいのかを考えたり演じたりするのが楽しかったです」とニッコリ。小泉さんを「40年来の同志」と表す本木さんは「倉本作品というエベレストの頂きを目指すには小泉さんの胸を借りたいという気持ちがあった。そして小泉さんとの共演はこれまで仕事を続けてきた事へのご褒美のようなありがたさがあった」と喜んでいた。一方の小泉さんも「変わっていないと言えば変わっていない。16歳からいまだに自己肯定感が低い。いつも悩んで反省ばかり。だからこそこういう役が出来る。私みたいにざっくりしているとできません」と本木さんの変わらぬストイックさに目を細めていた。
竜次に仕える謎のフィクサー・スイケン役の中井さんは、倉本さんとは『波の盆』(1983)からの付き合いで「倉本先生から美に対する違和感に対するお話を聞いていたので、ついにそれを映画化する時が来たのかと思った」としみじみ。一方、美術鑑定の権威・清家役の仲村さんは「小泉さんとは20年前に夫婦役で共演していて、その時も小泉さんには忘れられない人がいるという設定だった。さらに(現在放送中のドラマ)「団地のふたり」では僕が小泉さんの初恋相手なのに、小泉さんはそれを忘れているという設定。なかなか僕らは上手くいかないなあ」とコメント。
文部大臣・桐谷役の佐野さんは「なぜ私が!と驚いたのが正直なところ。自分は場違いではないかと思ったけれど、脚本を読んで納得しました」とニヤリ。また、倉本伝説のひとつとして「一字一句脚本通りに言わせる」というものがまことしやかにささやかれていたが、これを撮影前に直接倉本に確認したという本木さん。「倉本先生は、それは噂の独り歩きだと仰って。解釈がずれていなければご自分の感じたようにおやりになればよろしいと言われた」と証言すると、佐野さんは「しまった~!台本通りに、てにをはを間違えずに言ってしまった~」と語りました。
小樽のバーに勤め、竜次とスイケンと交流する女性・あざみ役の菅野さんは映画初出演。「倉本先生の映画に出られるチャンスはそうないぞと。『やるか?』と言われて『やります!』と出演させていただきました」と元気はつらつ。倉本作品2回目の若松監督は「倉本さんには怖い印象があって、シナリオには間だとか音楽の入るタイミングまで書いてある。しかし今回はとても優しい倉本さんでした」と舞台裏を紹介すると、倉本は「誤解されていますねえ!僕みたいにこんなに優しい人間はいません」と柔和な表情で語りました。
本木さんと小泉さんが演じる、30数年ぶりに再会する元恋人同士の物語にちなんで「30数年ぶりに再会した元恋人に会ったら何と声をかけるか?」を聞くと、小泉さんは「普通に『元気だった?』と聞く」、本木さんは「あ~…誰?」、佐野さんは「変わらないね」、菅野さんは「ヤッホー!」、仲村さんは「声をかけないと思う。会釈くらいかな」、中井さんは「ゆっくり目をそらすか、ハグするか…」、石坂さんは「健康について聞いたりするかな」と笑わせた。そして倉本さんは「越前の方で昔芸者だった人が旅館の女将になっていて…。僕は忘れていたのだけれど、向こうが両手をついて『おはるかぶりでございました』と言われたときは痺れた。それは時間を距離に変えての言葉で、このような日本語は良いなとゾクッときた」と実体験エピソードを話して、小泉さんを「素敵…」とウットリさせ、会場からも拍手が巻き起こりました。
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