
日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代のある夏。11歳のフキは、両親と3人で郊外に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままな夏休みを過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は複雑な事情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。だが、闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。
長編デビュー作『PLAN 75』(22)が第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞し、同年のアカデミー賞日本代表として選出、第63回テッサロニキ国際映画祭で、最優秀監督賞ほか3冠を受賞。第16回アジア・フィルムアワード、中国最高賞と言われる第35回金鶏奨、第58回シカゴ国際映画祭他、世界各国の映画祭で監督賞にノミネートされるなど、恐るべき評価を集めた早川千絵監督。高齢化社会が深刻化した近い将来の日本を舞台に、75歳以上の国民に生死の選択を迫る衝撃的な物語を描き、現代人に激しい警鐘を鳴らした。
3年ぶりの最新作『ルノワール』で綴られるのは、11歳の少女が、大人の世界を覗きながら、人々の心の痛みに触れていくまでを繊細な筆致で描いた、あるひと夏の物語。死への好奇心と怯え。生きることのどうしようもない寂しさ。誰かの温もりを求める気持ち。少女の視点から浮かび上がるさまざまな感情のきらめきに、誰もが心を掻き立てられる。
主人公を演じる鈴木唯の瑞々しい演技と、石田ひかり、リリー・フランキーのたしかな存在感。フキが出会う大人たちには、中島歩、河合優実、坂東龍汰ら実力派が出演。2025年を代表する日本映画の傑作が誕生した。
日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代のある夏。11歳のフキは、両親と3人で郊外に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままな夏休みを過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は複雑な事情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。だが、闘病中の父と、仕事に追われる母の間にはいつしか大きな溝が生まれ、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。
沖田フキ役鈴木唯
沖田詩子役石田ひかり
沖田圭司役リリー・フランキー
御前崎透役中島歩
北久里子役河合優実
濱野薫役坂東龍汰
脚本・監督早川千絵
※順不同
あの瞳と目が合ってしまったらきっと逃れられない。
世界の、正しさの中にいた。
彼女が一体何者かまだ知りもしないのに、
また夢で会いたいと願ってしまう。
あの子は、勇者のようだった。
コップに水いっぱいの表面張力のように、
つんと突いたら、いっぺんに溢れだすものを抱えた大人たち。
何食わぬ顔した偽善も、思いがけない殺意も、おぞましい欲望も、
かなしいほどの承認欲求も、精いっぱい抱える私たち。
まるで低温火傷を負うように、生きることの美醜がひりひりと疼き、やがて癒されていく。
きらきらと鈍色にひかる少女の機微によって。
懐かしいのに、全く古臭くないのは、
主人公が抱える、苦みも痛みも歪みも、
そこにきちんと描かれているからだと思う。
大人の世界に足を踏み入れた頃の自分を想い出しながら、
主人公・フキと、早川監督と共に・・・
ひと夏の爽やかな風、蒸し暑さを感じるスクリーンの中に入り
楽しい旅をさせていただきました。