たしかにあった幻

2026年2月 全国公開

第78回ロカルノ国際映画祭
インターナショナル・コンペティション部門
正式招待 

ヴィッキー・クリープス  寛一郎

監督・脚本:河瀨直美

音楽:中野公揮

制作:CINÉFRANCE STUDIOS 組画
共同制作:カズモ
配給:ハピネットファントム・スタジオ


© CINÉFRANCE STUDIOS - KUMIE INC - TARANTULA - VIKTORIA PRODUCTIONS - PIO&CO - PROD LAB - MARIGNAN FILMS - 2025

Trailer

Introduction

人は亡くなったら、
どこへいくのだろう―
生きたあかし、その鼓動と記憶を、
つないでいく
目をつむると、
いつも胸の中に
目に見える形がなくなっても、
別の誰かの体や記憶の中で生き続ける命。
生かされ、遺された者にできるのは、
それが確かに存在したあかし
記憶し続けること。
暗闇に目をこらし、
大地の囁きに耳をすませば、
今はもう会えなくなった彼らが
いつでもあなたのそばにいる。
“愛のかたち”と命のつながり“を
モチーフに
失踪と心臓移植の
現実を重ねて描く、
時を超えて運命が
交差する珠玉の人間ドラマ
フランスから来日したコリーは、日本における臓器移植への理解と移植手術の普及に尽力するが、西欧とは異なる死生観や倫理観の壁は厚く、医療現場の体制の改善や意識改革は困難で無力感や所在のなさに苛まれる。また、プライベートにおいても屋久島で知り合った迅と同棲を始めるが、お互いが使う時間のズレからくるコミュニケーションの問題に心を痛めていた。そんな中、心臓疾患を抱えながら入院していた少女・瞳の病状が急変するが・・・。

 「幻」とは実在しないものがあるかのように見えること、あるいは存在自体が疑わしいもの、の意に相当する。それを修飾する言葉として「たしかにあった」という表現は、論理的には成立しない。にもかかわらず、相反するワードを敢えて同義的に並べたタイトルは、二項対立を超えてゆく新しい思想を提案する本作の内容を知らしめている。また、この映画は、河瀨直美監督にとって6年ぶりとなる劇映画の最新作でもあり、オリジナル脚本としては8年ぶりである。物語を支えるテーマは二つ。一つは、先進国の中でドナー数が最下位という日本の臓器移植医療について。もう一つは年間約8万人にのぼる日本の行方不明者問題だ。河瀨監督は『あん』(15)で差別と偏見の果てに生きる歓びを人々に与えたハンセン病患者の生き様、『光』(17)で失われゆく視力に翻弄される人生の中で気づかされた新たな愛を獲得したカメラマンの人生、『朝が来る』(00)では特別養子縁組で救われた命の尊さと二人の母の絆など、旧来の常識や血縁とは異なる、他者との関係性の中に存在する「愛」を描いてきた。「死」が終わりではないという気づきの先に、移植医療が人の命を繋いでゆき、「生」の意味を問いかける本作は、第78回ロカルノ国際映画祭でのワールドプレミア上映にて、河瀨監督のマスターピース(傑作)と評された。

 主人公コリーを演じたのは、『ファントム・スレッド』(17)『蜘蛛の巣を払う女』(18)などで知られるルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープス。聡明な大人の女性であると同時に、時には少女のような無邪気さや脆さをうかがわせ、孤独と向き合う繊細な心の揺らぎとそれゆえの限りない優しさを全身全霊で演じ切る。コリーが屋久島で運命的に出会う謎めいた青年・迅には『爆弾』『そこにきみはいて』(25)など公開作が相次ぎ、連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)にも出演中の寛一郎。河瀨作品には初参加ながら、ワイルドで自由な存在感とある日突然姿を消してしまうような危うさを両立させた。なお、東京国際映画祭コンペ部門にノミネートの『恒星の向こう側』(監督:中川龍太郎)では役者としての河瀨直美と共演も果たしている。 また、『萌の朱雀』(97)で河瀨監督に見出された尾野真千子が最愛の息子を失い、一周忌を迎えた今も罪悪感に苛まれるめぐみを、河瀨監督の短編『狛-Koma』(09)や『主人公は君だ!』に出演してきた北村一輝が元捜査一課の刑事であり、とある事件をきっかけに現在は弁当屋として過ごす亮二を、ドナーとなる少年の父親には近年の河瀨作品に欠かせない永瀬正敏、また母親に早織、心臓病を患う少年、久志の母親・由美に岡本玲、同じく小児病棟に入院中の少女、瞳の母親・裕子に松尾翠、人手不足が深刻な移植コーディネーターの浜野に小島聖、臓器移植医療を担当する小児科医・平坂に平原テツ、迅の父親・英三に利重剛、母親・幸江には中嶋朋子と、錚々たる実力派が顔を揃えた。そして、河瀨監督がオーディションで見出した子役二人、久志役の中村旺士郎、瞳役の中野翠咲の実力派俳優顔負けのリアリティある演技にも注目してほしい。

 撮影には『光』と『Vision』(18)で河瀨監督の右腕をつとめた写真家の百々新と、河瀨監督のドキュメンタリー『東京2020オリンピック』(22)の撮影統括を担当した鈴木雅也が参加。音楽は本作が初の映画音楽となりパリを拠点とするピアニスト/作曲家の中野公揮、編集は『殯の森』以降これまでの河瀨監督の劇映画全てを手がけてきたティナ・バスがパリでの編集作業全般を担当した。本作はフランス・ベルギー・ルクセンブルク・日本の合作となっている。劇中で日本の移植医療関係者たちが交わすディスカッションや、心臓移植手術の現場をとらえたシーンは、実際に小児臓器移植に携わる人々の協力のもとで、役者と現役医師や看護師、また映画スタッフが入り混じってドキュメンタリーのように撮影された。さらに世界遺産にも登録された屋久島の、1000年以上生きてきた屋久杉が織りなす光景は、自身が生まれ育った奈良の森や奄美大島の海をはじめとする自然の神秘と一体のフィルモグラフィーを築いてきた河瀨監督だけに、人類の原初的な鼓動のように生命の源たる息吹を放っている。それはまるで地球の記憶のごとく、見るものの魂と響きあってこの世界に提示されてゆく。

Story

 フランスから来日したコリーは、神戸の臓器移植医療センターで働きながら、小児移植医療の促進に取り組んでいたが、西欧とは異なる日本の死生観や倫理観の壁は思った以上に厚く、医療現場の体制の改善や意識改革は困難でもどかしい思いを抱えていた。そんなコリーの心の支えは、屋久島で運命的に出会った恋人の迅だったが、彼の誕生日でもある7月7日の七夕に突然、姿を消してしまう。一年後、迅が失踪するはるか前に彼の家族からも捜索願が出されていたことを知ったコリーは、迅の実家である岐阜へと向かう。そこで明かされた事実から迅との出逢いが宿命的だったことがわかり愕然とするコリー。一方、心臓疾患を抱えながら入院していた少女・瞳の病状が急変するが・・・。

Staff & Cast

監督・脚本・編集:
河瀨直美
ヴィッキー・クリープス
寛一郎
尾野真千子
北村一輝
永瀬正敏
中野翠咲
中村旺士郎
岡本玲
松尾翠
小島聖
平原テツ
早織
利重剛
中嶋朋子
監督・脚本・編集:河瀨直美
生まれ育った奈良を拠点に映画を創り続ける映画作家。一貫した「リアリティ」の追求はドキュメンタリー・フィクションの域を越えてカンヌ映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での受賞多数。代表作は『萌の朱雀』『殯の森』『2 つ目の窓』『あん』『光』『朝が来る』など。 世界に表現活動の場を広げながらも、2010年には、故郷・奈良にて「なら国際映画祭」を立ち上げ、後進の育成にも尽力。ユネスコ親善大使、奈良県国際特別大使を務めるほか、大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサー兼シニアアドバイザーを務めた。 俳優として、第 38 回東京国際映画祭最優秀女優賞を受賞する他 CM 演出、エッセイ執筆など、ジャンルにこだわらず活動中。 プライベートでは、10年以上にわたりお米作りにも取り組んでいる。
Comment
この度、映画を本当に愛してやまないロカルノ国際映画祭の選考委員の皆様に 本年度のコンペ部門のクロージングフィルムに選んでいただきましたことを大変光栄に思います。
思い返せば、2000年公開の「火垂」がロカルノで受賞したことは 私にとってとても美しい忘れられない想い出です。
25年の月日を経て、またロカルノに戻って来れたことに感謝しています。

新作に寄せた ロカルノ映画祭のアーティスティックディレクターの Giona A.Nazzaroさんからのメッセージを以下に記します。

「水のように、音を立てずに深く掘り下げ
沈黙を恐れず、耳を傾ける映画を作ってくれてありがとう」
ヴィッキー・クリープス
1983年生まれ、ルクセンブルク出身。ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』(18)でのダニエル・デイ=ルイスとの共演により国際的なブレイクを果たす。『エリザベート 1878』(23)ではオーストリア皇后エリザベートを演じ、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の最優秀演技賞、ヨーロッパ映画賞女優賞、シカゴ国際映画祭シルバー・ヒューゴ賞を受賞。その他の出演作には、『オールド』(21 /M・ナイト・シャマラン監督)、『ベルイマン島にて』(22/ミア・ハンセン=ラヴ監督)、『彼女のいない部屋』(22/マチュー・アマルリック監督)、『アウシュヴィッツの生還者』(23/バリー・レビンソン監督)などがあり、幅広い役柄で観客を魅了している。
Comment
映画を作るとき、私は目に見えない一本の糸をたどります――夢という大きな織物に織り込まれていく糸です。
今回、糸は、私を屋久島の太古の森の奥深くへと導き、そして幼い頃のやさしい心へと連れ戻してくれました。
幽霊と現実のあいだの繊細な境界線を歩きながら、私は愛という謎に引き寄せられていきました。
寛一郎
1996年8月16日生まれ、東京都出身。2017年に俳優デビュー。同年に公開された映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で、第27回日本映画批評家大賞の<新人男優賞>を受賞。翌年には『菊とギロチン』で第92回キネマ旬報ベスト・テン<新人男優賞>など受賞。近年の主な出演作に『月の満ち欠け』(22)、『せかいのおきく』(23)、『首』(23)、『身代わり忠臣蔵』(24)、『プロミスト・ランド』(24)、『ナミビアの砂漠』(24)、『シサム』(24)、『グランメゾン・パリ』(24)、『爆弾』(25)、『そこにきみはいて』(25)など話題作に数多く出演。2025年はNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」、NHK後期連続テレビ小説『ばけばけ』への出演も話題を呼んだ。待機作として、河瀨直美監督が女優として出演している『恒星の向こう側』(26)が控える。
Comment
諸行無常。
何かこの作品に込められたテーマのような気がしています。
この作品は自分にとって挑戦でした。
言語、さまざまな自然での撮影、新たな人との出会いで、沢山の学びと、この現場でしか体験できない経験をさせてもらいました。
そんな作品がこうしてロカルノ国際映画祭に招待していただいた事を光栄に思います。
関わった沢山の人たちの努力が報われる気がします。
そしてこの作品が世界の人に見て頂けることに喜びを感じています。
尾野真千子
1981年11月4日生まれ、奈良県出身。1997年、中学3年生の時に河瀨直美監督作『萌の朱雀』で主演デビューし、第10回シンガポール国際映画祭最優秀女優賞を受賞。2007年、再び河瀨監督とタッグを組んだ『殯の森』は第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリを受賞した。11年、NHK連続テレビ小説「カーネーション」でヒロインを務める。近年の主な出演作に映画『ヤクザと家族 The Family』(21)、『明日の食卓』(21)、『茜色に焼かれる』(21)、『こちらあみ子』(22)、『サバカン SABAKAN』(22)、『ハケンアニメ』(22)、『20歳のソウル』(22)、『千夜、一夜』(22)、Netflix『阿修羅のごとく』などがある。
北村一輝
1969年7月17日生まれ、大阪府出身。A型。1999年公開の映画『皆月』、『日本黒社会 LEY LINES』でキネマ旬報日本映画新人男優賞を受賞。近年の主な出演作に『妖怪大戦争 ガーディアンズ』(21)、『沈黙のパレード』(22)、『世界の終わりから』(23)、『ヘルドッグス』(22)、『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』(23)、『カラオケ行こ!』(24)、『ゴールド・ボーイ』(24)、『身代わり忠臣蔵』(24)、『陰陽師0』(24)、『室町無頼』(25)、『でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男』(25)などがある。待機作として2026年に『木挽町のあだ討ち』(2月27日公開)、『ゴールデンカムイ 網走監獄襲撃編』(3月13日公開)が控える。
永瀬正敏
1966年7月15日生まれ、宮崎県出身。17歳の時、相米慎二監督『ションベン・ライダー』(83)でデビューし、ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』(89)で注目を浴びる。『息子』(91)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞ほか映画賞を多数受賞。河瀨直美監督作品には『あん』(15)、『光』(17)、『Vision』(18)に出演。近年の主な出演作に『GOLDFISH』(23)、『山女』(23)、『箱男』(24)、『徒花-ADABANA-』(24)、『国宝』(25)、『THE オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウMOVIE』(25)、『おーい、応為』(25)などがある。待機作として『しびれ』(26/内山拓也監督)が控える。
中野翠咲
2015年8月24日生まれ、東京都出身。2020年の映画『ステップ』でスクリーンデビュー。続けて映画『糸』(20)に出演。TVドラマでは「あんぱん」(25)、「スカイキャッスル」(24)、「坂の上の赤い屋根」(24)、「春になったら」(24)、「アトムの童」(23)、「杉咲花の撮休」(23)、「家政夫のミタゾノ」(22)、「にじいろカルテ」(21)、「カムカムエブリバディ」(21)、「病室で念仏を唱えないでください」(20)など、多数出演している。
中村旺士郎
2016年1月3日生まれ、大阪府出身。2023年に芸能活動を開始する。今作では、命に向き合う等身大の少年を熱演。また、なら国際映画祭for YOUTH 2025にて上映された「やまのべRadio」にも出演している。
岡本玲
1991年6月18日生まれ、和歌山県出身。2003年、第7回ニコラモデルオーディションでグランプリを受賞し、「ニコラ」の専属モデルとしてデビュー。2008年、『憐 Ren』で映画初主演、以降TVドラマや映画など多数出演。主な出演作に『ストロベリーナイト』(13)、『L♡DK』(14)、『サクラダリセット』(17)、『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』(18)、『弥生、三月-君を愛した30年-』(20)などがある。2024年、主演作『茶飲友達』で第37回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞した。
松尾翠
1983年8月11日生まれ、千葉県出身。元フジテレビアナウンサー。2023年、なら国際映画祭プロデュース映画制作プロジェクト、河瀨直美監督が監修・撮影を担当した『Muffin’s Law』に出演。2025年、TVドラマ「アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜」、本作への出演と女優としての活動を広げている。
小島聖
1976年3月1日生まれ、東京都出身。1989年、『せんせい』で映画デビュー。以降、様々な映画、TVドラマに出演、近年は舞台を中心に活躍中。近年の主な出演作に『続・深夜食堂』(16)、『食べる女』(18)、『あなたみたいに、なりたくない。』(20)、『キャラクター』(21)、『誰が為に花は咲く』(22)などがある。
平原テツ
1978年4月25日生まれ、福岡県出身。河瀨直美監督作品は『朝が来る』(20)に続いて本作が2作目の出演。近年の主な出演作に『シン・ウルトラマン』(22)、『わたし達はおとな」(22)、『ファミリア』(23)、『隣人X-疑惑の彼女』(23)、『ゴジラ-1.0』(23)、『首』(23)、『熱のあとに』(24)、『ショウタイムセブン』(25)などがある。
早織
1988年5月29日生まれ、京都府出身。河瀨直美監督作品は『光』(17)に続いて本作が2作目の出演。近年の主な出演作に『キセキ -あの日のソビト-』(17)、『遠いところ』(23)、『望み』(20)、『辻占恋慕』(22)、『リバー、流れないでよ』(23)、『走れない人の走り方』(24)などがある。
利重剛
1962年7月31日生まれ、神奈川県出身。映画監督、俳優。河瀨直美監督作品は『朝が来る』(20)に続いて本作が2作目の出演。近年の主な出演作に『シン・ウルトラマン』(22)、『釜石ラーメン物語』(23)、『ほかげ』(23)、『大いなる不在』(24)、『スマホを落としただけなのに~最終章~』(24)、『フロントライン』(25)、『長崎-閃光の影で-』(25)などがある。
中嶋朋子
1971年6月5日生まれ、東京都出身。「北の国から」シリーズで人気を博し、映画、TVドラマ、舞台など様々な作品に出演。近年の主な出演作に『家族はつらいよ』(16)、『美しい星』(17)、『家族はつらいよ』(17)、『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』(18)、『やがて海へと届く』(22)、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23)などがある。