たしかにあった幻 たしかにあった幻

河瀨直美監督最新作
“愛のかたち”と“命のつながり”をモチーフにして、失踪と心臓移植の現実を重ねて描く、時を超えて運命が交差する珠玉の人間ドラマ

人は亡くなったら、どこへいくのだろう―
生きた証、その鼓動と記憶を、 つないでいく
目をつむると、いつも胸の中に

河瀨直美監督にとってオリジナル脚本としては8年ぶりの最新作『たしかにあった幻』の物語を支えるテーマは二つ。一つは、先進国の中でドナー数が最下位という日本の臓器移植医療について。もう一つは年間約8万人にのぼる日本の行方不明者問題だ。河瀨監督は『あん』(15)で差別と偏見の果てに生きる歓びを人々に与えたハンセン病患者の生き様、『光』(17)で失われゆく視力に翻弄される人生の中で気づかされた新たな愛を獲得したカメラマンの人生、『朝が来る』(00)では特別養子縁組で救われた命の尊さと二人の母の絆など、旧来の常識や血縁とは異なる、他者との関係性の中に存在する「愛」を描いてきた。「死」が終わりではないという気づきの先に、移植医療が人の命を繋いでゆき、「生」の意味を問いかける本作は、第78回ロカルノ国際映画祭でのワールドプレミア上映にて、河瀨監督のマスターピース(傑作)と評された。