梅切らぬバカ 梅切らぬバカ

INTRODUCTION

閑静な住宅街にある古民家で、寄り添って暮らしている母と息子。ささやかな幸せに満ちた日々を送ってきたが、息子が50回目の誕生日を迎えたときに母はふと気づく。「このまま共倒れになっちゃうのかね?」母親と自閉症を抱える息子が、社会の中で生きていく様を温かく誠実に描く人間ドラマ。母・山田珠子を演じるのは、映画、ドラマを中心に常に第一線で活躍し続けている加賀まりこ。本作は『濡れた逢いびき』(67)以来、54年ぶりの主演映画となる。“ちゅうさん”の愛称で呼ばれる息子・忠男役は、ドランクドラゴンの塚地武雅。『間宮兄弟』(06)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞し、NHK連続テレビ小説「おちょやん」など俳優としても活躍。日本の若手映画作家を育てる「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・製作された本作。ドキュメンタリー映画の編集に携わり、障害者の住まいの問題に接してきた経験に着想を得て脚本を執筆、監督も務めたのは、『禁忌』(14)で長編映画監督デビューし、脚本家として『欲動』(14)、『マンガ肉と僕』(16)などを手がけた和島香太郎。分刻みのルーティンを守る規則正しい忠男と、軽口を叩きながら甲斐甲斐しく息子の世話をする珠子の日常はユーモラスで愛おしい。街の片隅のその一角だけ、昭和のまま時代が止まったかのような古民家が親子の住まいだ。庭に大きな梅の木が1本ある。忠男にとっては亡き父の象徴であり、枝は塀を越えて私道にまで伸び放題だ。タイトルの由来である諺、「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」とは、樹木の剪定には、それぞれの木の特性に従って対処する必要があることを指す。桜は幹や枝を切ると腐敗しやすく、梅は余計な枝を切らないとよい花実がつかなくなるためだ。だが、物事は型通りに収めるだけがすべてではない。相手と向き合い、でも互いに我慢しすぎず、共に幸せになる術を求めるなかで、“梅を切らないでみる”という発想が浮かんだら?何が一番良い選択肢なのかは、お互いを理解しようとしあう中で生まれてくるものであるはずだ。路上にまではみ出す梅の枝があってもいい。不寛容な世の中で、手探りで、それぞれが自分のペースで歩を進めていく。共に生きていくために、本当に大切なことは何か。答えを急がず、日々と向き合う母と息子の心温まる姿がそれを教えてくれる。

Keywords