行定勲監督インタビュー 行定勲監督インタビュー

—原作を読まれた印象をお聞かせください。

非常に名言が多いと思いました。言葉を駆使して書かれているし、絵も巧い。水城先生が伝えたいことは言葉に表れているし、人と人が言葉と身体で激しくぶつかりあう。それを漫画と同じテンションでやるのではなく、むしろ削ぎ落として作品の本質に近づこうと試みました。個人的に興味を惹かれたのは、恭一と今ヶ瀬の恋愛に女性が介在するところ。女性が刺客のように登場し、今ヶ瀬の恋路を阻む物語の展開が非常に面白いと思いました。主人公が浮気性で、女性を渡り歩いてきたところにも好感が持てました。「わかるなー」と(笑)。

—大倉忠義さんと成田凌さんの
キャスティングの経緯を教えてください。

成田はこの脚本を読んで、恭一と今ヶ瀬、どちらの役でもいいからこの映画に参加したいと表明をしてくれていました。成田が恭一だとしたら、もっと若い設定にしようと思いましたが、原作に「俺たちいい歳だから〜」という、恭一の成長を表す大事な台詞があるので、成田には今ヶ瀬をやってもらうことにしました。恭一は、もともと脚本の堀泉杏が大倉忠義をイメージして書いていたんです。彼の人柄、雰囲気、クールにみえて笑顔がファニーという“わからなさ”が恭一に重なると。ダメ元で打診したところ、脚本を読んで「やりたい」と言ってもらえた。成田がどちらの役でもいいと言ってくれたことが、この映画の実現を支えてくれました。

—お2人に演出した印象は?

過去の出演作を見ていたので2人とも演技ができることはわかっていたけれど、大倉は予想以上に素晴らしかったです。引き出しをたくさん持っていて、表現に無駄がない。恭一という男は、感情表現がとても難しいと思います。感情を見せたり見せなかったりするときに、こちらは感情をわからないように演出するときもあれば、もう少しだけ感情を見せてほしいときもある。そういうときに、大倉は画には映らない色気で伝えることができる。成田もそうでしたが、彼は比較的、キャラクターを作り込んでいく良さがありました。彼が演じる今ヶ瀬はとにかく可愛らしかったですね。しなやかで、繊細で。成田は、恋をしている高揚感に満ちた表情、特にキラキラと潤んだ目を表現するのが難しいと言っていたけれど、お芝居をし始めると不思議とそうなっていました。

—この作品は、多くの恋愛映画を撮ってきた行定監督のフィルモグラフィーにおいてどのような位置付けになりますか?

心境としては、当事者としてではなく、その人たちの物語を描くという意味で、『GO』のときと似ています。同性愛でも異性愛でも変わらない、誰かを想うことと、相手の想いを受け入れること。そこでじたばたする人たちの話です。国が傾こうとしているときに死にたくならないのに、自分の色恋沙汰は死にたくなるからラブストーリーが作られる。人間として一番身近だからこそ、一番苦悩するテーマを最たるものとして魅せられると思います。10年後に見ても色褪せない、大きな意味での恋愛映画になっていると思います。

インタビュアー:須永貴子