イントロダクション

「大事な話があるの」― そう言い残して急逝した母が、実は“自由死”を選んでいた。幸せそうに見えた母は、なぜ自ら死を望んでいたのか…。どうしても母の本心が知りたい息子の朔也は、最先端のAI企業に「母を作ってほしい」と依頼する。ただ、母の本当の心を知りたかっただけなのに、朔也は自分の心や尊厳さえも見失っていく。

テクノロジーは、人の心を再現できるのか? “自由死”を選んだ母の“本当の心”を知るために、
                  AIで彼女を蘇らせる…。

『月』で各映画賞を総なめにした石井監督が、発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描写。
時代の迷子になった青年を通し、我々が得たもの・失ったものを一つひとつ掬い取り、真摯な問いを突き付ける。

主演を務めるのは、近年ますます活動領域を拡張している俳優・池松壮亮。
時代に置いてけぼりにされた青年・石川朔也を、あえて地に足の着かない不安定な演技で見事に体現すれば、
数多くの名作映画に出演してきた俳優・田中裕子が朔也の母・秋子に扮し、
生身/VF(ヴァーチャル・フィギュア)という未知の“2役”に挑む。
そして、俳優として成長著しい三吉彩花が、母の素顔を知るキーパーソンであり、
過去の傷を抱えるミステリアスな女性・三好を好演。
さらに、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡といった日本映画界のオールスターキャストが集結、
各々の際立つ個性×意外な役どころの化学反応に期待が高まる。

AIや仮想空間、日々著しく進化するテクノロジーが日本のみならず世界中を席巻し、
生活様式が目まぐるしく変貌していく時代を彷徨う人間の【心】と【本質】を描いた、革新的なヒューマンミステリーが誕生した。

監督

石井 裕也 / 監督・脚本

石井 裕也/ 監督・脚本

《 コメント 》

平野啓一郎さんの傑作小説を映画化できて本当に光栄に思います。これからさらに普及していくAIやテクノロジーに対して少しでも不安に思っている方々に捧げる映画です。これから確実に到来する複雑な世界の中で、登場人物たちは地に足をつけられず、ひたすらに迷子になっていきます。それは明日の僕たちの姿です。あるいは、もしかしたら僕たちはもうとっくに迷子になっているのかもしれません。素晴らしいキャストとスタッフと共に人が生きる喜びをシンプルに祝福するためにこの映画を作りました。不思議で面白い極上の迷子を是非劇場でご堪能ください。

キャスト

池松 壮亮 / 石川 朔也 役

― 主 演 ―

池松 壮亮/ 石川 朔也

遠く離れた依頼主の指示通りに動く「リアル・アバター」として働く青年。何も告げずに“自由死”を選んでいた母の本心を知るため、最新AIを搭載したVF(ヴァーチャル・フィギュア)技術を利用して仮想空間に〈母〉を蘇らせる。

《 コメント 》

本心というあまりに素晴らしい原作を映画化させてくださった平野啓一郎さんに心から感謝しています。この難しい題材にありったけの力を注いでチームを導いてくれた石井裕也監督に心から感謝しています。最高峰のキャスト、最高峰のスタッフが結集し、私たちのこれまでについて、すぐそこまでやってきているこれからについて、2023年猛暑の夏、夢中に懸命に取り組みました。
本心を巡る旅路は、人間の本質を見つめ、人間の哀しみを見つめ、欲望と、愛と、存在そのものを追求するような果てしないものでした。
自分にとって、生涯忘れられない作品となりました。沢山の観客の皆さまとこの映画を共有できることを心から願っています。

三吉 彩花 / 三好 彩花 役

三吉 彩花/ 三好 彩花

朔也の母が生前親しかった友人。過去のトラウマから他人に触れられない。

《 コメント 》

三好彩花役を演じました、三吉彩花です。
まずこのお話を頂いた時から運命とはこういう事か、と…
そして逆に誰が三好をやるのだろうか、と…
何だか不思議な気持ちになりました。そして、今の私に必要な役でした。
撮影の裏話などをよく聞いていただきますが、こんなに心が苦しかったのは初めてで戸惑いました。
それは、三好と一緒に戸惑いました。
常に三好と背中合わせで、そこに三好が居るかのような、私にも三好が見えているような感覚でした。
皆様にもこの『本心』を感じていただきたいです。
本当に素晴らしい方々に恵まれました。この作品を観て救われる方がいらっしゃったら私はとても幸せです。

水上 恒司 / 岸谷 役

水上 恒司/ 岸谷

朔也の過去を知る幼なじみ。世話焼きな性格で、何かと気にかけている。

《 コメント 》

本や文字というものは、良質なものほど読み手に委ねると私は考えます。
それは大変なことだと考えます。
今作、『本心』の脚本に私はその委ねる力を感じました。
正直なところ、未だに正解がわかりません。
でも石井組に参加してそれで良いのだと学ばせて頂きました。
何とも消化の悪く心地の良いクランクアップを迎え、とても嬉しかったです。

仲野 太賀 / イフィー 役

仲野 太賀/ イフィー

世界的に有名なアバターデザイナー。ある出来事を機に、最初は朔也、その後三好にも興味を抱く。

《 コメント 》

石井組「本心」に参加できた事をとても嬉しく思います。AIが発達して変わりゆく社会と、変わることのない人間の愛の形を描いた今作がどのようにして映画になっていくのか。
脚本を初めて読んだ時、常に挑戦を続ける石井監督の更なる挑戦に、身震いしました。
僕が演じたイフィーという役は自由度が高く、軽やかでありながら寂しく、とても欲深い人間味をもっています。複雑なキャラクター像を演じるのは、僕自身大きな挑戦になりました。石井監督の演出を信じて導かれるように撮り切れたと思っています。

田中 泯 / 若松 役

田中 泯/ 若松

リアル・アバターの仕事を始めた朔也の依頼人。最期の願いを朔也に託す。

《 コメント 》

「本心」のひとこまに居る事
事は1日で済んだ、これを書いている私は現在、田中泯だ、が、私が演じた「あの人」は今も私の内に居る。映画の中にも短い時間だが「あの人」はずっと居続ける。人の存在は等しく架空だ。事実はなんであれ全て地球の過去となる。本心の台本が届いてから時間は重厚なモノローグに匹敵する貴重な稽古だった。更にも増して、撮影本番の私の右斜めかたわらで、喰いるように私のカラダを見続ける石井監督の存在は、「あの人」と共にあった。感謝!

綾野 剛 / 中尾 役

綾野 剛/ 中尾

野崎によって生み出されたVF。朔也にVFの「心」について語る。

《 コメント 》

池松さんの真心、妻夫木さんの愛情、石井裕也監督の真摯さに触れられて幸せでした。
私の役柄は、VF(ヴァーチャル・フィギュア)です。私を生んでくれた家族。もう会えない人に会いたいという果てしない想い。それぞれがそれぞれの心と向き合うこと。そして、私という"再生"と生きていくことの誠実さを体感しました。
本作が観てくださる方々にとって、ご自身の本心との対話のきっかけになりましたら幸いです。

妻夫木 聡 / 野崎 将人 役

妻夫木 聡/ 野崎 将人

VFの開発を行う技術者。朔也の依頼を受け、母のVFを制作。

《 コメント 》

石井組には何度も参加させていただいていますが、石井組の一体感は改めて素晴らしいものでした。 AIの世界は未だ私たちにとって未知の領域です。僕たち人間には感情があるからこそ存在している意義があると思いますが、人間とAI、リアルと仮想空間、うまく共存できる世の中というのがあっても、僕は面白いんじゃないかとこの映画で思わされました。そして、そう思わせてくれる未来は意外とすぐそばなのかもしれない、未来予想図のようなこの映画を是非映画館で楽しんで欲しいです。

田中 裕子 / 石川 秋子 役

田中 裕子/ 石川 秋子

朔也に黙って「自由死」を選んだ母。死後、VF(ヴァーチャル・フィギュア)として“復活”。

《 コメント 》

『本心』の脚本を読んだ後、石井監督に聞きました。
「ここに書かれている世界はだいぶ先の話しですよね」と。「いいえ、近い未来10年とか、あとちょっとぐらいかな」監督はそうおっしゃいました。世の中の新しいシステムについて行けず、困ったなぁ感満載の私の日々です。でもね。
この作品の主人公の男の子はいっぱい泣くんです。池松くんの涙を見てると、「こんなに男の子が泣いてくれるんだったらまぁいいか…」と近い未来の恐怖にちょっとだけ安心する私がいます。観ていただけたらわかると思うんだけどな。

原作情報

『本心』 (文春文庫/コルク)著者:平野 啓一郎
愛する人の本当の心を、あなたは知っていますか?「母を作ってほしいんです」――AIで、急逝した最愛の母を蘇らせた朔也。孤独で純粋な青年は、幸福の最中で〈自由死〉を願った母の「本心」を探ろうと、AIの〈母〉との対話を重ね、やがて思いがけない事実に直面する。格差が拡大し、メタバースが日常化した2040年代の日本を舞台に、愛と幸福、命の意味を問いかける。『マチネの終わりに』『ある男』に続く、傑作長編小説。
《 コメント 》

『マチネの終わりに』、『ある男』に続き、『本心』が映画化されることとなり、私は期待に胸を膨らせました。しかも、驚くほど豪華なキャスト! とは言え、本作の映像化の困難は容易に想像がつきました。2040年代の日本と、その世界を生きる人々は、果たしてどのように描かれるのか? 登場人物たちの人生を通じての思想的な問いかけは? 脚本の段階で相談を受けましたが、私は、原作のプロットを窮屈になぞろうとするのではない、石井裕也監督による映画的な再構築を受け容れました。試写会では固唾を飲んで見守りました。小説の映画化に於いて、原作と映画は、一種、共同的なライバル関係にあるのだということを、私は強く感じました。一つの新しい世界が誕生しました。そして私は、それを実現した監督、俳優を初めとする映画制作者たちに敬服しました。