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早稲田大学「マスターズ・オブ・シネマ」と「ぴあフィルムフェスティバル」のコラボ授業に石井岳龍監督が登壇!
早稲田大学での映画講義「マスターズ・オブ・シネマ」と、映画祭「ぴあフィルムフェスティバル」のコラボレーション授業が7月6日(土)に行われ、本作の監督を務める石井岳龍が登壇した。今回、壇上には本作のポスターに加えて、実際に撮影で使用された箱男が被るダンボールも用意された。担当教員の土田環氏からの「実際これを被って演技されていたんですよね?」という質問に対して石井は「去年のちょうど今ぐらいに撮影が終わったぐらいかな。6月の終わりから7月にかけての撮影で(箱の中は)完全に遮断されるから、俳優さんは本当に汗だくになったと思います」と過酷な撮影現場を振り返った。
また、本作は1997年に製作が決定するも、ドイツでのクランクイン前日に撮影が急遽頓挫。再スタートを切っての27年越しの公開に石井は「永瀬さんは中止によって2年ぐらい精神的なダメージがあって、かなり具合が悪くなったと言っていました。私も2年ぐらい立ち直れなかった。それでもずっと永瀬さんは箱男を待っていてくれた、私もずっと諦めてなかったので。今では必然的なことだったのかなと思っていますけど。時を経た分、確実に良くなっていると思います」と本作への自信をのぞかせた。さらに石井は箱男の企画が頓挫後を振り返る。「傷心の私にプロデューサーが声をかけてくれた。何でも好きなものをやってみないかと。そのときに『ELECTRIC DRAGON 80000V』という作品を考えて、永瀬さんと浅野さんの対決をやりたいとなった」と語った。
そんな『ELECTRIC DRAGON 80000V』をはじめ『五条霊戦記//GOJOE』、『箱男』など数多くの石井作品で主演や重要な役を務める永瀬正敏と浅野忠信。2人の役者人生を知る石井は「当時の永瀬さんは慎重に徐々に役をモノにしていくタイプというか、リハーサル回数を重ねる方が良いという感じで、浅野さんはどちらかというと一発勝負、最初のテイクが一番フレッシュで良いという感じでした。若い時はやっぱりクセがすごくあって、演出としてその違いは面白かったです。ですが、お二人ともいろんな監督さんといろんな映画をやられているので、演技アプローチの幅がもの凄く広くて、両者もう大ベテランで。今回そんなにテイク重ねてないと思うんです」と日本を代表する2人の俳優と歩んできた道のりと今回の撮影を嬉しそうに語った。
さらにトークは役者との関係性について深堀り。ぴあフィルムフェスティバルのディレクター荒木啓子氏は、「石井監督をはじめ多くの監督が俳優さんと魂が繋がっているような映画を作っていらっしゃるなというのを見る度にとても嬉しくなる。そういう関係をこの授業で伝えていけたらいいなというのを常に思っています」と話す。これに対して石井は、「どんなに監督・脚本が素晴らしくても、撮影・技術が素晴らしくても、その物語とかテーマをお客さんに伝えるのは俳優さんの言葉だったり、セリフのサウンド・響き・肉体の動きだったりします。特に感情表現の繊細さが大事だと思うんですけど、それを通して作品の大事なものを間接的に観客に伝えるので、俳優さんこそ本当に大事です」と語った。さらに日本映画の実情を踏まえて、「予算が諸外国に比べて非常に少ないということもある。そんな中で、非常に優秀な俳優さんたちがいらして、例えば永瀬さんは、奇抜な映画あるいは学生さんが初めて映画を撮るというデビュー作にでもその脚本とテーマといいますか、そのスピリットに共感すれば出るというスタンス。そういう方たちが日本映画をどれだけ支えているか、私をどれだけ支えてくれてきたかという点でも、映画を大切にしてくれている俳優さん達は日本映画の宝です」と語った。
さらに石井はこれまでで出会った俳優陣を振り返る。「今までお仕事を一緒にお仕事してきて、素晴らしい俳優さんたちで印象に残っているのは、何か禅の修行者みたいな方達だなと。自分の中にホンモノの核となる背骨があるから、自我は全部脱ぎ捨てることができ、役を憑依させて違う自我の衣をまとっても、常に冷静に演じることができる。例えば脚本に書いていないアドリブを相手役にいきなりぶつけられてもその役が壊れるかといったら壊れない。揺ぎなく、しなやかに、演技者としての自己核心的背骨がナチュラルに通っているから壊れようがない」と語る。これに対して荒木氏は、「これから会社員になる人にも絶対役立つ話ですよね。何をやるのも背骨が通っていて、それがみんな理解し合えているから高いところに行けるってことですよね」と学生への講義としての意義を感じた様子だった。石井は「作品にも背骨やピント的焦点があって、そのテーマである背骨への理解が、関わる人達でお互いに違っていたら、やっぱりどんなに優れた人たちとコラボレーションをしてもうまくいかない。その重要な背骨を合わせるっていうことが一緒に仕事をするときには最も重要なことだと思います。」と語った。
また、学生から“原作小説と作品、実際に映像化された映画作品との関係について”の質問がいくつか挙がったようで、石井は原作との向き合い方に言及。「原作の胸を借りるわけだから、原作のテーマ、核心の背骨をしっかりと映画に移し替える努力を最大限にして、イメージを損なわないようにするというのはとても気を使いますし、一番のテーマじゃないですかね。そのテーマも読む人によって違うかもしれませんが、そこがまた小説の魅力でもあったりしますけど、その作品が何を僕らに訴えようとしているのかということが、もちろん一番大切だと思います。そこは外さない努力をします」と語った。さらに、箱男については現代にその原作が蘇ることに意義を感じたようで「その箱の中に入って、自分では何でも見えているつもりでいるけれども、実は客観的な真実からは分断されている。隔絶された人の話というのは、ネットとかいろんな情報システムが発達した現在の方が案外わかりやすいというか、すんなり当てはまる気がします。私たちはやっぱり見えない箱に入ってると私は自覚しました。『箱男』を完成できたことで、今までうっすらとしか見えなかったものがよりクリアに見えました」と語っていた。
講義終了後には、撮影にて使用された箱男を学生たちが実際に被って体験する一幕も。ダンボールから覗く世界を体験することで、作品に対する理解を深めている様子だった。