INTRODUCTION
息子が遺した奇蹟の音楽―。
運命に導かれるように父親はギターを手にした。

突然の銃乱射事件で息子を亡くし、遺された未発表曲を歌い継ごうとする父親。そしてその歌に魅了されたミュージシャン志望の青年。音楽を通じて巡り合った、親子ほど歳の離れた男2人の再生と成長を描いたヒューマンドラマが誕生した。本作で監督デビューを飾ったのは『ファーゴ』や『マグノリア』での味のある存在感で知られる名優ウィリアム・H・メイシー。長年撮影現場で生きてきた経験と、演技からもにじみ出るペーソスとユーモアを活かし、良質な“人間ドラマ”と“音楽”をみごとに融合させてみせた。主演は『ビッグ・フィッシュ』のビリー・クラダップ。彼のギターの腕前は『あの頃、ペニー・レインと』で披露済みだが、本作では自らのバンドも持つアントン・イェルチンと共に吹替えなしで歌とギターを担当。音と音とが重なり合い、音楽を奏でる喜びに包まれる演奏シーンの数々には魅了されずにいられない。ストレートな感動だけでなく、衝撃的な“秘密”を持った秀逸な脚本を書き上げたのは、メイシーとインディーズ界注目の新進コンビ、ジェフ・ロビンソンとケーシー・トウェンター。『スプリング・ブレイカーズ』のセレーナ・ゴメス、『トランスアメリカ』でオスカー候補になったメイシーの妻、フェリシティ・ハフマンらが脇を固める。サムたちの心の旅の果てに訪れるラスト。すべての人に語りかけるようなクラダップの歌声に、誰もが静かな涙を禁じ得ないだろう。

STORY
やり手の広告宣伝マンのサムは大きな契約をまとめ、祝杯をあげようと大学生の息子ジョシュを強引に呼び出した。ところがジョシュは店に現れず、テレビに映し出されたのは大学で起きた銃乱射事件の速報ニュース。ジョシュは帰らぬ人になってしまったのだ。2年後。会社を辞めて荒んだボート暮らしを送るサムを、別れた妻が訪ねてくる。「あの子の音楽好きはあなた譲りだから」と渡されたのは、生前にジョシュが書き溜めていた自作曲の歌詞とデモCD が詰まった箱。曲を聴いたサムは、ジョシュが何を思い、何を感じて暮らしていたのかをまったく知らなかった自分に気づく。ジョシュが遺したギターでジョシュの曲を爪弾くようになったサムは、場末のライブバーの飛び入りステージに参加する。酔客の喧騒の中、唯一サムの演奏に反応したのは引っ込み思案なロック青年のクエンティンだった。「あの曲はもっと多くの人に聴かせるべきだ」と力説する情熱に押し切られ、サムは親子ほど年の違うクエンティンとバンドを組むことに。“ラダーレス”と名付けられたバンドは、サムが作者だと勘違いしたままジョシュの曲を次々とレパートリーに加え、人気を博してライブバーでレギュラーの座を射止める。クエンティンとメンバーたちが有頂天になる一方で、サムもジョシュの死と向き合い、生きる喜びを取り戻していく。そんなある日、“ラダーレス”に地元で開催されるロックフェスへの出演依頼が舞い込む。メジャーデビューも夢じゃないと盛り上がるクエンティンとは裏腹に、「出演はしない」と断るサム。実はジョシュの曲には、決して人前で演奏してはいけない理由があった……。