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INTRODUCTION

 ある地方の暴力が蔓延る町。貧困にも喘ぐ18歳の少年ヨンギュと、彼の絶望漂う瞳にかつての自分を重ねた裏社会の男チゴン。傷だらけのふたりが交錯した時、彼らの運命は思わぬ方向へ猛スピードで走り出す―――。社会格差の闇を描き続ける韓国映画界から新たな才能が発掘された。長編デビュー作にしてカンヌ国際映画際へ導いたキム・チャンフン監督が、原題はオランダを意味する、身体的痛みと心の叫びが渾然一体となったデッドエンド(行き止まり)のクライム・ドラマを創出した。
 救いようのない現実から義理の妹ハヤンを守り抜くために暴発するヨンギュを漲るエネルギーで体現したのは、映画初主演のホン・サビン。本作の脚本に惚れ込み、チゴン役を熱望したのは、「ヴィンチェンツォ」『ロ・ギワン』等の主演作を誇るソン・ジュンギ。大きく作り上げた体躯になまなましい傷を全身に刻み、虚無感と悲哀を纏った悪の男に成り切った。芯の強いハヤン役には本作で百想芸術大賞の新人演技賞に輝いた、“BIBI”として広く知られる人気シンガーのキム・ヒョンソ。
 登場人物それぞれの望みさえ抱けない境遇とは裏腹に、自由を渇望する彼らの心の深淵にまで触れるこの物語は、観る者の胸を締めつけてやまない。

STORY

 継父のDVに怯える18歳のヨンギュ(ホン・サビン)は、義理の妹ハヤン(キム・ヒョンソ)を守るために暴力沙汰を起こして高校を停学、その上、示談金を求められる。行き止まりの現実に苦しむ彼の夢は、いつの日かオランダへ移住すること。その願いも空しくバイト先をクビになったヨンギュは、地元の犯罪組織のリーダー、チゴン(ソン・ジュンギ)の門戸を叩くほかなかった。仕事という名の“盗み”を働き、徐々に憧れのチゴンに認められていくヨンギュだったが、ある日、組織の非情な掟に背いてしまう。荒んだ日常の中で互いに寄り添ったハヤンをも巻き込み、意を決してチゴンのもとへ駆けつけるが……。

CAST

ヨンギュ
ホン・サビン
1997年4月18日生まれ。地を這いずり回るようなどん底の経験を、動物的な勘で演技に昇華させる新進気鋭の演技派。漢陽大学演劇映画科在学中に映画の助監督や舞台の演出などスタッフの仕事を続けながら、約2000作のオーディションを受け、約80本の短編映画に出演。『休暇(原題)』『爆炎(原題)』で頭角を現し、『ユ・ヨルの音楽アルバム』ではチョン・ヘイン扮する主人公の亡き友人役で登場した。オーディションで主演を勝ち取った本作の演技について「中学校の時にいじめられていた時の気持ち、彷徨っていた時間、劣等感に悩んだ日々すべてを盛り込んだ。そのため、理解できないことはひとつもなかった」と語っている。
主な出演作
【映画】
『脱走(原題)』(24)、『アンニョン、明日また会おう(原題)』(23)、『万人の恋人(原題)』(22)、『ユ・ヨルの音楽アルバム』(19)、『爆炎(原題)』(短編/19)、『休暇(原題)』(短編/17)
【テレビ】
「放課後戦争活動」(23)、「運の悪い日」(23)、「智異山~君へのシグナル~ 」(21)、「保健教師アン・ウニョン」(20)
チゴン(地元の犯罪組織のリーダー)
ソン・ジュンギ
1985年9月19日生まれ。『スペース・スウィーパーズ』や「ヴィンチェンツォ」で不動の実力・人気を証明している、韓国を代表するトップ俳優。2008年に『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』でデビューして以来、映画とドラマを行き来し、さらに「ミュージックバンク」をはじめ音楽番組のMCを務めるなど、マルチな才能を発揮してきた。演技の振り幅も大きく、韓国内外でシンドロームを巻き起こした「トキメキ☆成均館スキャンダル」と「太陽の末裔」では、凛々しさと時折見せる子犬のような笑顔でハートをわしづかみに。近年では、実在する財閥をモデルにした「財閥家の末息子~Reborn Rich~」や脱北者の過酷な生活を描く『ロ・ギワン』など社会派作品で、内面をリアルかつ丁寧に演じる技量を見せている。本作ではチゴンという難しい役に挑み、存在感から表情、声のトーンまで徹底的に変身させて、キャラクターの内面と外面を繊細に表現。出演を決めた理由について「これは韓国映画界に絶対に必要なプロジェクトだと信じていたので、参加する機会をいただけて感謝している」と語った。
主な出演作
【映画】
『ロ・ギワン』(24)、『スペース・スウィーパーズ』(21)、『軍艦島(原題)』(17)、『私のオオカミ少年』(12)、『ちりも積もればロマンス』(11)、『ボクとマウミの物語』(10)、『イテウォン殺人事件』(09)、『オガムド~五感度~』(09)、 『霜花店(サンファジョム) 運命、その愛』(08)
【テレビ】
「財閥家の末息子~Reborn Rich~」(22)、「ヴィンチェンツォ」(21)、「アスダル年代記」(19)、「太陽の末裔 Love Under The Sun」(16)、「優しい男」(12)、「根の深い木 -世宗大王の誓い-」(11)、「トキメキ☆成均館スキャンダル」(10)、「愛の選択~産婦人科の女医~」(10)、「クリスマスに雪は降るの?」(09)、「トリプル」(09)、「愛しの金枝玉葉」(08)
ハヤン(ヨンギュの義妹)
キム・ヒョンソ
BIBIという活動名で広く知られるシンガー。サバイバル番組「THE FAN」で準優勝し、2019年にシングル「Binu」でデビュー。2024年2月にリリースしたダブルシングルのタイトル曲「Bam Yang Gang(栗ようかん)」が韓国でチャート1位を独走して話題をさらった、今もっともホットなアーティストのひとり。本作のヨンギュを守ろうとする大胆かつ芯の強いハヤン役には、熾烈なオーディションを勝ち抜き、抜擢された。「私が大人の道へと新たな一歩を踏み出すことができる映画」と語っている。本作で2024年百想芸術大賞<新人演技賞>に輝いた。
主な出演作
【映画】
『PHANTOM/ユリョンと呼ばれたスパイ』(23)、『女高怪談 6番目の話:母校(原題)』(21)
【テレビ】
「最悪の悪」(23)
スンム(チゴンの手下)
チョン・ジェグァン
韓国有数の映画祭で演技力を認められた有望株。『受難二代(原題)』でソウル独立映画祭「独立スター賞」を受賞し、業界関係者の視線を一気に集める。「君を守りたい~SAVE ME~」で名前を知らしめ、『めまい 窓越しの想い』で初主演。身体づくりとトレーニングを重ねて野球選手をリアルに演じた『NOT OUT(原題)』では、全州国際映画祭で「俳優賞」、青龍映画賞で「新人男優賞」に輝いた。本作では、鋭いまなざしと方言で繊細さと重みを兼ね備えたキャラクターに憑依した。「ヨンギュに心を開くチゴンに対し、スンムは嫉妬、裏切りを感じたはず。この部分をよく表現してみたかった」と語っている。
主な出演作
【映画】
『犯罪都市 THE ROUNDUP』(22)、『NOT OUT(原題)』(21)、『パイプライン』(21)、『妻たちの逃避行』(21)、『めまい 窓越しの想い』(19)、『エクストリーム・ジョブ』(19)、『目撃者』(18)、『受難二代(原題)』(短編/16)、『夏の夜(原題)』(短編/16)、『スカウティング・レポート(原題)』(短編/15)
【テレビ】
「最悪の悪」(23)、「偶然出会った、あなた」(23)、「曲げない男、ク・ピルス」(22)、「シェアオフィスで何してる?」(22)、「わかっていても」(21)、「サイコだけど大丈夫」(20)、「熱血司祭」(19)、「魔女の法廷」(17)、「君を守りたい ~SAVE ME~」(17)
チョンドク(ヨンギュの義父)
ユ・ソンジュ
1973年11月12日生まれ。長い間演劇の舞台で鍛えた演技力を武器に、40代半ばで初めてテレビに進出した遅咲きの俳優。韓国の受験戦争の闇をえぐったドラマデビュー作「SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~」がシンドロームを巻き起こし、一躍スポットライトを浴びた。以後、世界的ヒットとなった「イカゲーム」では医療事故で富と名誉を失った医師役、一方、韓国で1300万人以上の観客動員数を記録した映画『ソウルの春』では鎮圧軍の中将役と、話題作に次々と出演。大作を彩る名バイプレイヤーとしての地位を築いている。
主な出演作
【映画】
『王をさがして(原題)』(23)、『ソウルの春』(23)、『声もなく』(20)
【テレビ】
「餌 【ミッキ】」(23)、「LINK:ふたりのシンパシー」(22)、「ホームタウン ―消される過去―」(21)、「TIMES~未来からのSOS~」(21)、「イカゲーム」(21)、「秘密の森2」(20)、「補佐官」(19)、「偉大なショー~恋も公約も守ります!~」(19)、「自白」(19)、「SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~」(18)
モギョン(ヨンギュの母)
パク・ボギョン
1981年11月27日生まれ。韓国芸術総合学校の先輩だった俳優チン・ソンギュが立ち上げた劇団に所属し、長く演劇の舞台でスキルを磨く。2010年にチン・ソンギュと結婚、出産後は育児を優先していたが、復帰後は映画やドラマを中心に活動。「シスターズ」で演じた強烈なオーラを放つ悪役をはじめ、「良くも、悪くも、だって母親」ではいつもパックで素顔を隠す謎めいた夫人を演じるなど、一作ごとに観る人の心に爪痕を残しながら上昇気流に乗っている。
主な出演作
【映画】
『パーフェクト・バディ 最後の約束』(19)、『悪人伝』(19)、『ロマン』(19)、『ザ・メイヤー 特別市民』(17)、『ごますりの王(原題)』(12)、『今だから言える(原題)』(08)、『純情漫画』(08)
【テレビ】
「良くも、悪くも、だって母親」(23)、「ムービング」(23)、「シスターズ」(22)、「LINK:ふたりのシンパシー」(22)、「怪物」(21)、「賢い医師生活」(20)、「走る調査官~あなたの人権守ります!~」(19)
チュンボム(親分)
キム・ジョンス
1964年11月30日生まれ。いぶし銀のような光を放つベテランのバイプレイヤー。演劇界で研鑽を積み、イ・チャンドン監督の『シークレット・サンシャイン』で映画の世界へ。時にコミカルな面も見せつつも、重厚感と信頼感ある風貌や演技力に定評があり、『アシュラ』『悪いやつら』のようにスリリングなクライムサスペンスや、『キングメーカー 大統領を作った男』『サムジンカンパニー1995』『野球少女』など実話ベースの作品に欠かせない存在となっている。2023年のヒット作『密輸 1970』では厳格な税関係長に扮し、韓国映画評論家協会賞、釜日映画賞などの助演男優賞を総なめにした。
主な出演作
【映画】
『ドリーム〜狙え、人生逆転ゴール!〜』(23)、『密輸 1970』(23)、『ハント』(23)、『キングメーカー 大統領を作った男』(21)、『サムジンカンパニー1995』(19)、『野球少女』(19)、『スタートアップ!』(19)、『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』(19)、『人生は、美しい』(19)、『エクストリーム・ジョブ』(18)、『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』(17)、『1987、ある闘いの真実』(17)、『アシュラ』(16)、『華麗なるリベンジ』(16)、『悪いやつら』(11)、『プンサンケ』(11)、『シークレット・サンシャイン』(07)
【テレビ】
「ムービング」(23)、「スノードロップ」(21)、「キングダム」(19)、「ヘチ 王座への道」(19)、「推理の女王 シーズン2~恋の捜査線に進展アリ?!~」(18)、「仮面の王 イ・ソン」(17)、「ビューティフル・マインド~愛が起こした奇跡~」(16)、「プロデューサー」(15)、「ミセン-未生-」(14)
中華料理店の主人
チョン・マンシク
1974年12月11日生まれ。ソウルの劇場街・大学路の小劇場で俳優としてのキャリアを積んだチョン・マンシク。『ハント』『藁にもすがる獣たち』などハードボイルドな作品群を中心に多作で知られ、脇を支えながら見せる圧倒的な存在感から「韓国映画界のシーンスティラー」との異名をもつ。「役を演じるのではなく、役と向き合う」というのが、どんな職業を任されても生業のように感じさせる彼の演技哲学だ。
主な出演作
【映画】
『ソウルの春』(23) 、『夜行(原題)』(22)、『ハント』(22)、『ノンストップ』(22)、『藁にもすがる獣たち』(20)、『剣客』(20)、『金の亡者たち』(19)、『王宮の夜鬼』(18)、『保安官』(17)、『大将キム・チャンス』(17)、『息もできない』(08)
【テレビ】
「最悪の悪」(23)、「美男堂の事件手帳」(22)、「インサイダー」(22)、「アンダーカバー ~君を守りぬく~」(21)、「復讐せよ~あなたの恨み晴らします~」(20)、「ドラマワールド」(20)、「補佐官2」(19)、「Vagabond/バガボンド」(19)、「バッドパパ」(18)、「操作~隠された真実」(17)、「マン・ツー・マン ~君だけのボディーガード~」(16)、「タンタラ ~キミを感じてる」(16)

DIRECTOR

監督・脚本
キム・チャンフン
初長編監督作品『このろくでもない世界で』で、キム・チャンフン監督は、過酷な現実から逃れようとするヨンギュと、彼に同情するある地方の犯罪組織のリーダー、チゴンの物語を練り上げた。本作は実話ではないものの、監督自身が経験しなければ描けないと言わしめた通り、リアリティを帯びている。デビュー作でカンヌ国際映画祭に招待されたことからも、新たなフィルムメイカーを渇望していた韓国映画界がその才能に注目している。幼い頃から映画監督になる夢だけを見てきた監督は、東亜放送芸術大学映画芸術科を卒業後、脚本・演出・撮影・編集を担当した短編映画『ダンス・ウィズ・マイ・マザー(原題)』(12)でデビュー。『このろくでもない世界で』のシナリオは、生計のためにモーテルでアルバイトをしながら、受付のカウンターで執筆した。思い通りにならない人生に重ねて、「積極的に行動することが、まったく予想できなかった結果になる悩み」を盛り込んだと語る。